第1章 3.国生み 神生み

涙が出なくなった頃、イザナギとイザナミは天上界てんじょうかいに向かった。

天の神さまたちに相談しにきたのだ。

鹿の肩の骨を焼いて占いをする。焼いた桜の木の匂いがただよった。骨のひび割れ具合を見て、別天つ神ことあまつかみさまたちはこう言った。

「ふぅむ。天の御柱てんのみはしらを回った際に、イザナミが先に口を開いたのは良くなかったようだ。そこからもう一度やり直してみたらどうだろう」

そうだ、間違えてもやり直せばいいんだ。

早速島に戻ったイザナギとイザナミは、もう一度はじめからやり直すことにした。柱をぐるりと回り、出会い直す。

今度は、イザナギが先に口を開いた。「なんて素敵な女性なのだろう」

イザナミも言った。「なんて素敵な男性なのでしょう」

それから、イザナギとイザナミは愛し合った。

 

 

なんていうことだろう。

今度はびっくりするくらいたくさんの子供が生まれてきた。

最初は大地が生まれた。淡路島あわじしま。それから、ひとつの体に四つの顔をもつ伊予いよ。そして三つ子の隠岐おき。これまた、ひとつの体に四つの顔をもつ筑紫つくし壱岐いき。今度は対馬つしま佐渡さど。それから、大倭豊秋津島おおやまととよあきづしま

この八つの島たちが最初にうまれたから、ずっと昔に日本のことを「大八島国おおやしまぐに」と呼んでいたこともあるんだって。

でも、この子供たちだけじゃない。

さらに、吉備兒島きびのこじま小豆島あずきじま大島おおしま女島ひめじま知訶島ちかのしま兩兒島ふたごのしまも産んだ。

これで国がそろった。

 

 

国ができたから、今度は自然や暮らしにまつわる神さまを生もう。

だけどね、たくさんたくさん子供が生まれた中で、実は、まだどんな神さまか知られていない神さまもいるんだ。

どんな神さまか一緒に考えてみてほしい。

“大きい事を成し遂げた”っていう神さま、大事忍男おおことおしお

石や土の神さま、石土毘古いわつちびこ。それから、石や砂の神さまである石巣比賣いわすびめ

大戸日別おおとひわけみ。(ねぇ、どんな神さまだと思う?)

屋根を整える天之吹男あめのふきお。家の神さまである大屋毘古おおやびこ

風が吹き抜ける神さま、風木津別之忍男かざもつわけのおしお

海の神さま、大綿津見おおわたつみ

川が海に注ぐところ、海の入り口の神さま、速秋津比古はやあきつひこ速秋津比売はやあきつひめ

 

 

この速秋津比古はやあきつひこ速秋津比売はやあきつひめも、結婚して子供をうんだ。

水面の泡がぐ、つまり穏やかになる神さま、沫那藝あわなぎと、水面の泡がさわぐ神さま、沫那美あわなみ

水面がぷくぷくしなくなる時の神さま、頬那藝つらなぎと、水面がぷくぷくする神さま、頬那美つらなみ

それから、川の流れがわかれるところの神さま、天之水分あめのみくまり国之水分くにのみくまり

水をむ時の神さま、天之久比奢母智あめのくひざもち国之久比奢母智くにのくひざもち

風の神さま、志那都比古しなつひこ

木の神さま、久久能智くくつち

山の神さま、大山津見おおやまづみ

野原の神さま、鹿屋野比賣かやのひめ

 

 

この大山津見おおやまづみ鹿屋野比賣かやのひめも結ばれて、さらに子供がうまれた。

山の坂道をつかさどる神さま、天之狭土あめのさづち国之狭土くにのさづちナ

霧がでる山の境をつかさどる神さま、天之狭霧あめのさぎり国之狭霧くにのさぎり

まっくらな谷をつかさどる神さま、天之闇戸あめのくらど国之闇戸くにのくらど

山の低地で迷う時の神さま、大戸惑子おおとまとひこ大戸惑女おおとまとひめ

 

 

イザナギとイザナミにも、また新しい子供がうまれた。

速く飛ぶ天鳥船とりのいわくすふねと、食べ物の神さま、大宜都比賣おおげつひめ

 

 

子供たちはどんどん生まれてくるけど、ここまでの神さまたちは、イザナギとイザナミの子供。

もしくはイザナギとイザナミの子供の子供や、子供の子供の子供。

イザナギとイザナミの子供たちが、世界に満ちている。

愛し合って夫婦になったイザナギとイザナミの子供たちが。

だから、ねぇ、これだけは覚えておいて。

この世界は、愛から生まれたんだよ。