涙が出なくなった頃、イザナギとイザナミは天上界に向かった。
天の神さまたちに相談しにきたのだ。
鹿の肩の骨を焼いて占いをする。焼いた桜の木の匂いが漂った。骨のひび割れ具合を見て、別天つ神さまたちはこう言った。
「ふぅむ。天の御柱を回った際に、イザナミが先に口を開いたのは良くなかったようだ。そこからもう一度やり直してみたらどうだろう」
そうだ、間違えてもやり直せばいいんだ。
早速島に戻ったイザナギとイザナミは、もう一度はじめからやり直すことにした。柱をぐるりと回り、出会い直す。
今度は、イザナギが先に口を開いた。「なんて素敵な女性なのだろう」
イザナミも言った。「なんて素敵な男性なのでしょう」
それから、イザナギとイザナミは愛し合った。
なんていうことだろう。
今度はびっくりするくらいたくさんの子供が生まれてきた。
最初は大地が生まれた。淡路島。それから、ひとつの体に四つの顔をもつ伊予。そして三つ子の隠岐。これまた、ひとつの体に四つの顔をもつ筑紫。壱岐。今度は対馬。佐渡。それから、大倭豊秋津島。
この八つの島たちが最初にうまれたから、ずっと昔に日本のことを「大八島国」と呼んでいたこともあるんだって。
でも、この子供たちだけじゃない。
さらに、吉備兒島、小豆島、大島、女島、知訶島、兩兒島も産んだ。
これで国がそろった。
国ができたから、今度は自然や暮らしにまつわる神さまを生もう。
だけどね、たくさんたくさん子供が生まれた中で、実は、まだどんな神さまか知られていない神さまもいるんだ。
どんな神さまか一緒に考えてみてほしい。
“大きい事を成し遂げた”っていう神さま、大事忍男。
石や土の神さま、石土毘古。それから、石や砂の神さまである石巣比賣。
大戸日別。(ねぇ、どんな神さまだと思う?)
屋根を整える天之吹男。家の神さまである大屋毘古。
風が吹き抜ける神さま、風木津別之忍男。
海の神さま、大綿津見。
川が海に注ぐところ、海の入り口の神さま、速秋津比古と速秋津比売。
この速秋津比古と速秋津比売も、結婚して子供をうんだ。
水面の泡が凪ぐ、つまり穏やかになる神さま、沫那藝と、水面の泡がさわぐ神さま、沫那美。
水面がぷくぷくしなくなる時の神さま、頬那藝と、水面がぷくぷくする神さま、頬那美。
それから、川の流れがわかれるところの神さま、天之水分、国之水分。
水を汲む時の神さま、天之久比奢母智、国之久比奢母智。
風の神さま、志那都比古。
木の神さま、久久能智。
山の神さま、大山津見。
野原の神さま、鹿屋野比賣。
この大山津見と鹿屋野比賣も結ばれて、さらに子供がうまれた。
山の坂道をつかさどる神さま、天之狭土、国之狭土。
霧がでる山の境をつかさどる神さま、天之狭霧、国之狭霧。
まっくらな谷をつかさどる神さま、天之闇戸、国之闇戸。
山の低地で迷う時の神さま、大戸惑子、大戸惑女。
イザナギとイザナミにも、また新しい子供がうまれた。
速く飛ぶ天鳥船と、食べ物の神さま、大宜都比賣。
子供たちはどんどん生まれてくるけど、ここまでの神さまたちは、イザナギとイザナミの子供。
もしくはイザナギとイザナミの子供の子供や、子供の子供の子供。
イザナギとイザナミの子供たちが、世界に満ちている。
愛し合って夫婦になったイザナギとイザナミの子供たちが。
だから、ねぇ、これだけは覚えておいて。
この世界は、愛から生まれたんだよ。