ずっとずっと昔。
きみがうまれるずっとずっと昔。
ぼくがうまれるずっとずっと昔。
世界にまだなにもなかった頃。
もしかしたら、もうすべてあったのかもしれない頃。
天上界である高天原 に神さまがあらわれた。
なんにもなかったのに、だぁれもいなかったのに、不思議。
神さまの名前は、天之御中主といった。
それから今度は、高御産巣日という神さまと、
神産巣日という神さまがあらわれた。
もしぼくがそこにいて「どんな神さまなの?」
って聞いたら答えてくれたかな?
天之御中主は天の中心の神さまだって。
高御産巣日と神産巣日は、なにかが生まれてくることの神さまだって。
だけどぼくがなにかを聞くこともなく、この神さまたちはどこかに隠れてしまった。
“なにかが生まれてくる神さま”があらわれたから、今度は大地がうまれた。
でも、まだうまれたばっかりだから、
ふわふわ ふわふわって、漂っているんだ。
まるで水にぽたりと落とした油みたいに。
まるで海を漂う海月みたいに。
そんな時のことだ。ねぇ、植物の葦ってものすごい勢いで成長するだろ?
その葦みたいな勢いで芽吹いた神さまがいる。
宇摩志阿斯訶備比古遅。
ほら、名前にも「葦」ってはいってる。
それから、天之常立。
天の根元の神さまなんだって。
この神さまたちもまた、どこかに隠れてしまった。
別天つ神とよばれる、天の神さまたち。
天の神さまがあらわれたから、今度は国土の神さまがあらわれた。
国之常立。国の根元の神さま。
それから豊雲野。雲のようになにかが集まっている神さま。
きっといろんなものが集まったから国土ができたんだろうな。
そうして、この神さまたちもご多分に漏れず、また、どこかに隠れてしまった。
次にあらわれたのは泥や砂の神さま。男神である宇比地邇と女神である須比智邇。対の神さまだ。
ねぇ、気づいた?
これまでの神さまたちには男神と女神みたいな、対になる神さまがいなかったよね。
独りの神さま、独神。
誰とも手をつないでいない独りの神さまが、一番最初にあらわれたんだ。
独りの神さまと対の神さま。
独りでもいいし、対でもいい。
どっちの存在もいるって、なんかいいよね。
泥や砂の神さまである宇比地邇と須比智邇のあとには、男神・角杙と女神・活杙があらわれた。角がぴょこっと生えてくるみたいに、“生えはじめる神さま”角杙と、“活動しはじめる神さま”の活杙。
それから、男神・意富斗能地と女神・大斗乃辨。“国がでてくる”っていう神さま。
今度は、男神・淤母陀琉と、女神・阿夜訶志古泥。神さまが“満ち足りた”っていう神さま。
つまりさ、角杙と活杙で生えはじめて、活動しはじめた神さまが、足りないところがないくらいに成長したってこと。
神さまの名前が、そのままこの世界のはじまりの物語になっているだなんて、ちょっと面白い。
それでさ、国の中心的神さまである国之常立から、次の神さまたちまでを神世七代っていうんだ。
この最後の神さまたちのこと、しっかり覚えておいて。
名前は、伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)。彼らの物語がはじまるよ。