第1章 1.はじまりの物語

ずっとずっと昔。

きみがうまれるずっとずっと昔。

ぼくがうまれるずっとずっと昔。

世界にまだなにもなかった頃。

もしかしたら、もうすべてあったのかもしれない頃。

天上界てんじょうかいである高天原たかまのはら に神さまがあらわれた。

なんにもなかったのに、だぁれもいなかったのに、不思議。

神さまの名前は、天之御中主あめのみなかぬしといった。

それから今度は、高御産巣日たかみむすひという神さまと、

神産巣日かみむすひという神さまがあらわれた。

もしぼくがそこにいて「どんな神さまなの?」

って聞いたら答えてくれたかな?

天之御中主あめのみなかぬしは天の中心の神さまだって。

高御産巣日たかみむすひ神産巣日かみむすひは、なにかが生まれてくることの神さまだって。

だけどぼくがなにかを聞くこともなく、この神さまたちはどこかに隠れてしまった。

 

 

“なにかが生まれてくる神さま”があらわれたから、今度は大地がうまれた。

でも、まだうまれたばっかりだから、

ふわふわ ふわふわって、ただよっているんだ。

まるで水にぽたりと落とした油みたいに。

まるで海を漂う海月くらげみたいに。

そんな時のことだ。ねぇ、植物のあしってものすごい勢いで成長するだろ?

そのあしみたいな勢いで芽吹めぶいた神さまがいる。

宇摩志阿斯訶備比古遅うましあしかびひこぢ

ほら、名前にも「あし」ってはいってる。

それから、天之常立あめのとこたち

天の根元ねもとの神さまなんだって。

この神さまたちもまた、どこかに隠れてしまった。

別天つ神ことあまつかみとよばれる、天の神さまたち。

 

 

天の神さまがあらわれたから、今度は国土の神さまがあらわれた。

国之常立くにのとこたち。国の根元ねもとの神さま。

それから豊雲野とよくもの。雲のようになにかが集まっている神さま。

きっといろんなものが集まったから国土ができたんだろうな。

そうして、この神さまたちもご多分に漏れず、また、どこかに隠れてしまった。

次にあらわれたのは泥や砂の神さま。男神おがみである宇比地邇うひぢに女神めがみである須比智邇すひぢについの神さまだ。

ねぇ、気づいた?

これまでの神さまたちには男神おがみ女神めがみみたいな、ついになる神さまがいなかったよね。

ひとりの神さま、独神ひとりがみ

誰とも手をつないでいないひとりの神さまが、一番最初にあらわれたんだ。

ひとりの神さまとついの神さま。

ひとりでもいいし、ついでもいい。

どっちの存在もいるって、なんかいいよね。

 

 

泥や砂の神さまである宇比地邇うひぢに須比智邇すひぢにのあとには、男神おがみ角杙つのぐい女神めがみ活杙いくぐいがあらわれた。角がぴょこっと生えてくるみたいに、“生えはじめる神さま”角杙つのぐいと、“活動しはじめる神さま”の活杙いくぐい

それから、男神おがみ意富斗能地おおとのぢ女神めがみ大斗乃辨おおとのべ。“国がでてくる”っていう神さま。

今度は、男神おがみ淤母陀琉おもだると、女神めがみ阿夜訶志古泥あやかしこね。神さまが“満ち足りた”っていう神さま。

つまりさ、角杙つのぐい活杙いくぐいで生えはじめて、活動しはじめた神さまが、足りないところがないくらいに成長したってこと。

神さまの名前が、そのままこの世界のはじまりの物語になっているだなんて、ちょっと面白い。

それでさ、国の中心的神さまである国之常立くにのとこたちから、次の神さまたちまでを神世七代かみよななだいっていうんだ。

この最後の神さまたちのこと、しっかり覚えておいて。

名前は、伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)。彼らの物語がはじまるよ。

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